業界の厳しさを伝えることと、希望を伝えること

アパレルや縫製業界について、厳しい話を目にする機会が増えています。

人手不足、賃金、後継者不足、原材料費の上昇、加工賃、技術継承。

どれも、実際に現場で仕事をしていれば無視できない問題です。

現状を正しく知ることも必要ですし、業界の中で危機感を共有することも必要だと思います。

ただ最近、こうした情報を見るたびに、少し考えることがあります。

若い人には、この業界がどう見えているのだろう

これからアパレルや縫製の仕事に入りたいと思っている若い人が、こうした情報を見たらどう感じるでしょうか。

そして、その親御さんはどう思うでしょうか。

「アパレルの仕事をやってみたい」

もし自分の子どもからそう相談され、業界について調べたとき、

「人がいない」
「工場が減っている」
「技術者がいなくなる」
「賃金が上がらない」
「将来が厳しい」

そんな情報ばかりが出てきたら。

自分が親の立場だったとしても、

「本当にその業界で大丈夫なのか」
「もう少し考えた方がいいんじゃないか」

と言ってしまうかもしれません。

親であれば、できるだけ安定した仕事に就いてほしいと思うのは自然なことです。

だからこそ、業界の中にいる私たちが何を発信するかは、思っている以上に大切なのではないかと思っています。

厳しい現実を隠せばいいわけではない

もちろん、業界の良いところだけを発信すればいいとも思いません。

実際に課題はあります。

昔と同じ仕事のやり方では難しくなっている部分もあります。

人材の育成、価格の考え方、技術の継承、働き方。

変えていかなければならないことは少なくありません。

ただ、

「厳しい」
「人がいない」
「このままではなくなる」

と問題を発信するだけでは、そこで話が終わってしまいます。

課題を伝えるのであれば、

「では、自分たちはどうするのか」

そこまで発信していく必要があるのではないでしょうか。

外からは見えにくい、服づくりの仕事

例えば、パターンやグレーディングという仕事があります。

一般の方には、あまり馴染みのない仕事かもしれません。

パターンは、デザインを実際に服として形にするための設計図を作る仕事。

グレーディングは、そのパターンをS・M・Lなどの各サイズへ展開していく仕事です。

ただ単純に寸法を大きくしたり、小さくしたりしているわけではありません。

デザイナーの意図を理解しながら、縫製できる構造に整理する。

素材の特性を考える。

サイズが変わっても、元の服のバランスが崩れないように調整する。

仕様書を整え、ブランドと縫製現場の認識を合わせる。

一着の服が商品になるまでには、表からは見えない仕事がたくさんあります。

そこには、経験も技術も必要です。

同時に、まだ改善できることもたくさん残されています。

技術を残しながら、仕事のやり方は変えていく

私たちの現場でも、昔から続いている仕事のやり方を少しずつ見直しています。

紙や手作業で行っていた業務をデジタル化する。

転記作業を減らす。

情報を共有しやすくする。

AIや自動化を使い、人がやらなくてもよい作業を減らす。

一方で、技術については「仕組みを入れれば残る」というものではないとも感じています。

服づくりには、実際に見て、触って、考えて、経験を重ねなければ身につかないことが多くあります。

そこで今年度からは、社外の講師にも入っていただき、社内で勉強会を始めました。

日々の仕事の中だけでは、どうしても教える内容や考え方が社内の経験に偏りがちです。

外からの視点や、長く現場で培われてきた考え方に触れることで、自分たちのやり方を見直すきっかけにもなっています。

【パターン勉強会】

外部講師を招いて実施している社内勉強会。技術だけでなく、考え方や判断の理由まで学ぶ機会にしています。

若いスタッフに技術を伝えること。

教える側も、感覚だけで終わらせず、できるだけ言葉にして残していくこと。

これは、短期間で結果が出る取り組みではありません。

それでも、技術継承を課題として語るだけではなく、自分たちなりに実際に手を動かしていく必要があると思っています。

もちろん、すべてを新しい仕組みに変えれば良いわけでもありません。

服づくりには、人が見て判断しなければならないことも多くあります。

長年培ってきた技術や感覚を残しながら、単純作業やミスが起こりやすい部分は仕組みで補う。

そうすることで、技術者が本来向き合うべき仕事に、もう少し時間を使えるようになるのではないかと考えています。

課題が多いということは、変えられる余地も多い

業界には課題があります。

これは間違いありません。

ただ、課題が多いということは、見方を変えれば、まだ改善できる余地がたくさん残っているとも言えます。

仕事の進め方を変える。

技術の教え方を変える。

情報の残し方を変える。

会社同士の関わり方を変える。

新しい技術を取り入れる。

これからの世代だからこそ、変えられることもあるはずです。

若い人に、

「この業界は素晴らしいから、ぜひ来てください」

と単純に言うつもりはありません。

決して楽な仕事ばかりではありませんし、向き不向きもあります。

それでも、厳しい情報だけを見て、この仕事を選択肢から外してしまうのは少し残念に感じます。

厳しい部分も知った上で、

「それでも面白そうだ」
「自分もやってみたい」

と思ってくれる人がいる。

そんな人が挑戦できる業界であってほしいと思います。

現場にいる私たちだから伝えられること

そのためには、現場にいる人間が、自分たちの仕事をもう少し言葉にしていく必要があるのかもしれません。

何が大変なのか。

何が面白いのか。

どんな技術があるのか。

何を変えようとしているのか。

これから、どんな仕事にしていきたいのか。

私自身も、十分にできているとは思っていません。

仕事について発信するときも、つい目の前の問題や課題について書くことがあります。

ただ、その言葉を見ているのは同業者だけではありません。

これから業界に入る若い人が読むかもしれない。

その親御さんが読むかもしれない。

ブランドやデザイナー、これから一緒に仕事をする人が読むかもしれない。

そう考えると、発信する内容についても、もう少し考える必要があると思っています。

現実は、きちんと伝える。

課題も隠さない。

ただ、未来まで暗く見せる必要はない。

問題を伝えるのであれば、

「自分たちは、どう変えていこうとしているのか」

そこまで伝えていく。

私たち自身も試行錯誤の途中ですが、そんな発信を少しずつ増やしていきたいと思っています。

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